杜の樹神(もりのこだま)8月号

  百万遍


 万遍は、もとは仏教の修行僧の修行項目の一つで、念仏や真言・題目を短期間に百万遍繰り返す行です。


 この行をすると記憶力が増し、聡明になることから、天平白鳳時代には、官吏を目指す多くの受験者が、勉学をはじめるまえに実行していたようです。 弘法大師空海さんも修行僧から教えられ、真言を百万遍唱える虚空蔵求聞持法を実行して、仏教の神髄を体解しました。その後唐に留学して密教を学び、真言宗の祖となりました。


 時代が下って南北朝・後醍醐天皇の時代、京都では疫病が大流行しました。この時、浄土宗京都知恩寺第八世善阿が多くの僧や信徒を集めて、南無阿弥陀仏を唱えながら大数珠を繰りまわす行を行ったところ、蔓延していた流行病がおさまったことから、広く一般に行われるようになりました。


 江岩寺でも年間行事として、災害が多発するとされる二百二十日に、大山区の安寧と豊穣を祈願して厳修されてきました。 鵜飼氏によれば、むかしはお年寄りから子供まで、村民の半数以上がお寺に集まったそうです。しかし残念ながら現在は数人の役員のみで形だけの区の行事となっております。


 日本の社会は昔から、一つの村に、一つの神社と一つのお寺があり、これらを中心にして共同体を形成して平和な社会を守ってきました。だからこそ、人と人との絆が緊密となり、世界がうらやむ倫理性の高い社会が出来上がっていたわけです。


 伝統行事には、それなりの深い意味があり、価値があります。


 時代が違う、人が集まらないなどの理由で安易にやめてしまっては、ご先祖様達が大事に守ってきた地域のつながりが無くなってしまいます。 現在行われている大山の伝統行事をみんなで守り、子々孫々に伝えてゆく努力をすることで、大山区の共同体は守られていくのではないでしょうか・・・。


   真の文明は

   山を荒らさず    

   川を荒らさず    

   村を破らず    

   人を殺さざるべし 

         田中正三


洞雲山 江岩寺(臨済宗妙心寺派)

江岩寺は、愛知県小牧市北東部丘陵地帯の大山区に位置しており、緑豊かな自然環境のなか小牧市最高峰、標高約300mの天川山を背景にして静かに佇む山寺です。 山の中腹に大山寺塔跡、兒神社(ちごじんじゃ)不動堂、 そしていくつかの古墳、麓に江岩寺と薬師堂があり、 これらが連なる開析谷一帯は国の史蹟に指定されています。